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落としたコピー本、申し訳ないのでWEB上で無償公開します。平安紅昌、多分籠目編後、ただのエロです。てへぺろ。


 声が低くなった。
 背がじい様を抜いた。
 肉と骨が伸びて、体が固くなった。
 終わったのは子どもの成長。始まったのは大人の成長。変化はまだ終わらない。俺はまだまだ変わっていく。
 戸惑いこそすれ、嫌悪感はない。できなかったことができるようになる、単純な喜びがあるから。もちろんできなくなっていくこともあるけど、それはしょうがないだろう。少し寂しいけれど、こうして皆大人になっていくんだから。
 体が変化していく。それに引きずられるように、心と行動も変化していく。
 俺はいつまでも子どもじゃない。子どもではいられない。
 お前は、そのことちゃんとわかってるのかな。

 久方ぶりの逢瀬だった。ここ数ヶ月はごたごたして満足に触れることもできなかったし、そもそも流感から回復したばかりの昌浩は本調子ではなかったから、紅蓮は気遣って誘うことをやめていた。再び参内を許され、身辺が落ち着くまではと我慢していたのだ。ようやく以前のような生活が戻り、昌浩の気が緩むようになった頃、紅蓮は昌浩の手を引いて茵に連れこんだ。
 胡座をかいた膝の上に昌浩を乗せ、口付ける。騒動の前であればすぐに赤面なり抵抗していたりしたはずの昌浩は、なぜか静かだった。家人の寝静まった屋敷の中、昌浩の自室では濡れた音と不規則な息遣いが響く。唇を食み、髪を解き、単衣の上から体をなぞってやると、冷たい空気にやっと悩ましげな吐息が零れた。野良仕事をせず武器を扱うことのない柔らかい手が紅蓮の胸を押し、潤んだ双眸が至近距離から視線を放ってくる。
 いつもなら口ではいやだいやだと言いながら一緒に事を進めるくせに。今日のこの素直さはなんなのだろう。やはり久方ぶりだからだろうか。
 口元に笑みを刷き、紅蓮は昌浩の背に手を添えると茵に横たえさせ――途中で、首に絡みついた細腕に動きを止めた。
「待って」
 吐き出された熱い息が喉元を撫で上げる。
「座ったまましたい。だめ?」
「いいや、」
 反射的に返すものの、紅蓮は少し驚いていた。
 寝所では基本的に与えられる快楽を享受するだけで、昌浩は自分から何かを提案したり、行動するだけの余裕を持ち合わせていない。幾度か交わってもそれが変わることはなかった。ただ紅蓮に不満はなく。昌浩が自信の手管に乱れて泣く様を観賞できるだけで十分だった。
 だが今夜の昌浩は違うらしい。
 上体を起こして再び膝の上に乗せてやると、腕はそのままに昌浩自らが顔を寄せてくる。紅蓮は腰を抱いてそれを受け入れた。半開きの口から舌を侵入させ、相手のものを絡めとってやろうとして――ぬるりと動いた昌浩の舌に、ぎょっとして身を引いた。
「お、お前」
「ん?」
 首を傾げて、十五になったばかりの子どもは赤く色づいてきた唇を舌で舐めた。ゆっくりと。……妙に婀娜っぽいそんな仕草は、これまで一度も見せなかったのに。
(誰かに教えられた、とか)
 瞬間脳裏をよぎったのは、水干を着た少女だった。
 いやいやそんなはずはない。いくら彼女がある一点において時折過激だったとはいえ無理矢理男子を手篭めにするような性格ではなかったし、何よりそんな暇はなかった、はずだ。大体昌浩は鈍感で奥手、彼女の誘いにすら気付かないような奴だ。いくらなんでも、そんな、馬鹿な。
 大変失礼な妄想が頭の中で増殖していく。もんもんとした紅蓮の焦りには気付かないのか、昌浩は無邪気に尋ねてきた。
「どした? よくなかったか?」
「いいにはいいが」
「じゃあ問題ないよな」
「ちょっと待て、お前どこでこん……」
 こんなの覚えてきた、という質問は吐息とともに消えた。
 ざらりとした舌の粘膜が咥内を犯す。つたないが、躊躇いはない。いつの間にか紅蓮の後頭部には手が回され、逃げ場を封じ込めていた。背伸びするようにして唇を合わせ、ただただ無心に舌を触れ合わせようと積極的に攻めてきていた。時々背筋を震わせあえかな嬌声を洩らすが、動きを止めることはない。紅蓮が薄目を開けて伺うと、昌浩は頬を朱に染め蕩けきった表情で感覚だけを追っている。
 自分から求めてくれるようになったのは嬉しいが――それとこれとは話が別だ。
 昌浩の両肩に手をかけ、引き剥がす(正直このままでもいいと考えていた己の一部を矯正するのは多大な労力を必要とした)。とろんとした眼差しで見上げる昌浩はどこまでも無防備で、このまま押し倒して食べてしまいたくなる。が、すんでのところで自制が間に合った。
 数回深呼吸してからきっと視線を上げると、紅蓮は傍らを指さした。
「昌浩、ちょっと座りなさい」
「はあ? なんで」
「いいから」
 互いの唾液で汚れていた口元を、昌浩が袂で拭う。溶けかけの眼差しがようやくなくなって、彼は不機嫌そうに紅蓮を睨み上げていた。
 沈黙が降り積り――
「やだ」
 一言で切って捨てると、昌浩は膝立ちになって紅蓮にのしかかった。
「こら待て! お前なんか今日ちょっと変……」
「言っておくけど、俺は紅蓮に教え込まれたことをやり返してるだけだからね」
「な」
 思わず紅蓮が固まる。その隙に籠手をさっさと外して、昌浩は紅蓮の手のひらを持ち上げるとその真ん中に唇を落とした。ちゅっという高い音が薄暗闇に響く。その横顔がひどく大人びて見え、紅蓮は言葉を失った。
 昌浩が、まるで別人のようだった。
 確かに数ヶ月前までは恥じらいながら紅蓮に身を任せていたのに、この変貌はなんなのだろう。声変わりをして、背が伸びたからだろうか。子どもから大人へと羽化していく最中だからなのか。こんなにも早く、あっという間に、成長してしまうものなのか。
 呆然としている間に、昌浩が紅蓮の腰帯に手をかけていた。我に返り、慌ててその両腕を掴む。すると不服そうに黒瞳が眇められ、紅蓮は滅多にかかない冷や汗をかいた。
「……しないの?」
「そうじゃなくてだな」
 姿形ばかりが大人に近づいたかと思っていたら、そうではなかった、ということなのだろう。快感を追うにも余裕が生じ、対等に動けるようになったのだ。それ以外にも、主導権の握り方なども理解したに違いない。
 それにしてもこういった際の凄みは晴明に似ている。こんなところでやっぱり孫なのだなあ、と感じるとは。正直こういう形で実感したくはなかった。
 紅蓮はため息をつく。それから昌浩の前髪を掻き分け、皺の寄った眉間に唇で触れた。
「少しは俺にもさせろ」

 先程までの横抱きではなく今度は跨らせて、紅蓮は単衣の上から昌浩の尻をやわやわと揉んだ。同時に首筋へ唇を当てるとわざと音を立てながら吸い上げる。噛みつくように歯を立ててやると、喉が弱い昌浩は面白いように反応を返してくる。喘ぎながら仰け反り、肩に添えられた指をぶるぶると震わせた。
「あ、あとつけんな……」
「見えないとこに付けてる」
「うそばっか……この前敏次殿に見つかったの紅蓮だって知っ……」
 ひゃあ、と甲高い悲鳴が上がった。
 背を撓め、まだまだ細い体が紅蓮にしがみつく。反してその腰は浮き上がろうとしていたが、紅蓮の大きな両手が動きを妨げていた。
 いや、妨げていると断言するには語弊がある。昌浩が身を捩って逃げようとしている原因はその手にこそあった。細腰をがっしりと捕らえたその手が、昌浩の最も弱い部分を紅蓮自身に押し当てさせているのだ。
 当てるだけではない。けっして激しくはないものの、揺さぶり続けて起きる摩擦により、単衣の奥の育ちきっていない花芯に刺激を与えている。昌浩の爪先がぴんと伸び、先端からじわじわと瘧のような激しい震えが始まっていった。逃げられはしない。振動でさらに高まっていく快感が昌浩の脚を横に割り、脱力させ、何十もの重い鎖と化し全身を縛っていた。
 すでに脚の間はどろどろに溶け、解放の時を待ち望んでいる。
 紅蓮がにやりと笑った。ずるずると崩れ落ちそうな昌浩の片足を持ち上げると、今度こそ茵に押し倒す。触れ合っていた灼熱が消え失せ、昌浩はほっとしたような、切ないような、不思議な響きの悲鳴を上げた。それを耳にしながら、紅蓮は手早く単衣の帯を解いてしまう。幼い花芯が露わとなった。紅蓮は躊躇せず――透明な滴を零して泣いているその昌浩自身を口に含んだ。
「あ、あ、あああ……っ」
 昌浩の腰が淫らに跳ね、細い太股が両側から紅蓮の頭を締め付けた。限界の近かった花芯はすぐに精を放出する。殺した嬌声が微かに部屋に響いた。
 紅蓮が口を離して顔を上げると、昌浩は口を袂で押さえたまま、ぼんやりと宙を見上げていた。栗の花の匂いのする液体を嚥下する。それから紅蓮は昌浩の背に手を回すと、羽織っているだけとなった単衣を脱がせた。その間に、昌浩の両目に光が戻ってくる。
 彼は吐精したばかりで重い体をのろのろと起こすと、紅蓮の胸にことんと頭を落とした。
「……俺もやる」
 一瞬紅蓮の体が強ばった。が、すぐに力が抜ける。気付いた昌浩が見上げると、相棒であり、父であり、兄であり、恋人である彼は複雑そうな顔をして、昌浩を見下ろしていた。
「……嬉しいが、あまり無理をしないでくれ」
「ん」
 頷くと、昌浩は体を屈めた。
 何も付けていない紅蓮の逞しい体躯、その脚の間に顔を寄せる。紅蓮自身もすでに勃ち上がっていた。自分という存在がこの現象を引き起こしているのだと感じる度、昌浩は喜びを感じる。
 だって、嫌いな相手に触られたって、普通こうはならないのだ。
 紅蓮が昌浩のみっともない姿で興奮している――その事実が、彼には何より愛おしかった。
 昌浩のものとは全く違う、太くて大きな陰茎に舌を寄せる。……初めての口淫だったが、要領はわかっていた。紅蓮が気持ちよくなってくれるかどうかはまた別の話だが。
 血管の浮き出る幹を舌先でなぞり上げる。まだあまり先走りが出ていないから、自分の唾液で濡らすしかない。最初は舌先で、だんだん舌全体で舐め上げるようにして、どくどくと脈打つ紅蓮をさらに育てていく。満遍なく舐め終わったところで、唾液が乾かないうちに指を添え、上下に動かし始める。――全部紅蓮から教わったことだ。
 ちらりと見上げると、紅蓮は微笑を浮かべて昌浩を見守っていた。多分、手は出してこない。最後まで昌浩の好きにさせてくれるのだろう。
 嬉しくなって昌浩が笑うと、紅蓮がくしゃりと昌浩の頭をなぜた。
 照れ隠しだろうか。
 こう見えて物の怪姿でないときでも可愛いところがあるんだと、他の十二神将たちは知っているだろうか。じい様は知ってるような気がするけど。できれば、じい様と昌浩だけが紅蓮の可愛いところを知っている人間だといい。
 その想いが独占欲なのだとは思いもせず――昌浩は、紅蓮を口に含んだ。
 歯を当てないように、唇を窄めて、裏筋を舌で刺激しながら頭を前後に動かす。見る見るうちに紅蓮は硬度を増し、脈動も激しさを強めていった。流石に喉の奥までは飲み込めないから浅い愛撫になってしまうが、それでも昌浩は一生懸命だった。口の外に出てしまっている幹は指で擦り上げ、じんわりと苦い味が口の中に広がっていくことに喜びを感じていた。張りつめた陰茎が弾ける瞬間を今か今かと待ち――ついに訪れたその時も、口を離すことはなかった。
 紅蓮が苦しげに呻く。口の中に勢いよく白い液体が迸る。昌浩はぎゅっと顔をしかめた。口一杯に、今までとは比べものにならない苦さが蔓延していく。
 だが肩を震わせながらなんとか飲み下すと、彼は面を上げて放った相手を見やった。
「まっず……」
 紅蓮が吹き出した。しかめっ面の昌浩が相当ツボに入ったらしい。
 喉がいがらっぽくなってしょうがないのだが、飲んだこと自体の後悔はない。ただ、これを美味しいと言って飲むには相当の修行が必要な気がする。
 そう言って眉を寄せる昌浩の頭をまた撫で、紅蓮は笑いながら慰めた。
「まあ、美味いもんではないな」
「じゃあなんで紅蓮は飲めるのさ」
「そりゃあ……」
 紅蓮がしばしの間考え込む。
「愛か?」
 昌浩の眉間の皺がさらに深くなる。右手で拳を作り、彼は俯きながら底冷えのする呟きを吐いた。
「次は絶対飲む……」
「別にお前はそこまでしなくてもいいんだぞ?」
 これは親切心、親心から出た本心だったのだが、昌浩は違う風に捉えたようだ。敵を見据えているときと寸分違わぬ威力の眼光が紅蓮をぎらりと貫く。
 彼はゆっくりと、幼児に言い聞かせるように紡いだ。
「やるから」
「……あ、ああ……」
 据わった目に逆らってはいけない。こういうとき、昌浩はどうやっても我を通しきることを紅蓮は知っていた。
 なんせ生まれたときからすぐ側にいるのだから。

 昌浩は交わりが終わった後は失神するように眠ってしまうのが常だった。ところが、今夜はどういうわけが眠たそうであるものの意識を保っている。どうやら成長期を迎えたことで体力が付いたらしい。
 それにしても、こういった成長を遂げる以前から手を出している、というのはいかがなものなのだろうか。
 いくら惚れたからとはいえ、赤ん坊の頃から見守ってきた大事な大事な愛し子である。ここ十年ばかりの紅蓮の記憶は昌浩の成長記録と言い換えてもいい。作ったこともいたこともないが、紅蓮にとって昌浩は息子も同然の存在だ。そんな子どもを抱いてしまったことを、紅蓮は本当に今更であるが少しばかり後悔していた。
 鬱々とした紅蓮の様子に気づいたのか、一緒の袿に包まっていた昌浩が目線を上げる。気のせいではなく、ジト目だ。
「……あのさあ、した後に落ちこまれるといらっとくるんだけど」
「……すまん」
「どうせまた碌でもないこと考えてるんだろ」
「碌でもなくはない。大切なことだ」
「はいはい」
 くあ、と大きく欠伸をして昌浩は紅蓮に擦り寄った。胸元に鼻を押し付け、暖気を逃さないように腕を回す。「次はさ、」くぐもった声で彼は続けた。
「俺も頑張って動くようにするから」
「………」
「紅蓮はこういう俺は嫌?」
「そんなわけはない」
 即答だった。――そう、別に嫌なわけではない。
 昌浩は顔を見せないまま、微かに笑った。
「あのね、俺だって紅蓮が喜ぶこと、したいんだよ」
「……そうか」
「うん」
 紅蓮は大きくため息を吐いた。
「お前は大人になったなあ……」
「言っとくけど、まだ大きくなるからね」
「そうか……」
 昌浩の成長が喜ばしいことは重々承知している。これは紅蓮の、ただの感傷にすぎない。きっと喉元過ぎれば熱さを忘れるだろうが、それまでは当分付き合うしかないだろう。昌浩には申し訳ないが。
 だが昌浩は既になにもかも感じ取っているようだ。理解した上で紅蓮に接しているのだろう。これではどちらが大人かわからない。
 苦笑して、紅蓮は昌浩を緩く抱きしめた。
 やっぱり、この子どもには敵わない。
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