浮かび上がっていた像が色を失ってぼやけていく。
水晶球はみるみるうちに元の透明度を取り戻し、蔀戸から射し込む陽光を受け鮮やかな橙へと染まっていった。
紅蓮は傍らの主人の様子を窺った。晴明は黙然として、何も映っていない水晶を撫でている。渋面ではないにしろ、深い皺を刻んだその顔は常になく眼光を鋭くさせていた。余程深く考え込んでいるのか、紅蓮の露骨な素振りにも反応しない。
夕刻となり風が冷えてくる時間だ。単衣と袴、それと袿一枚しか身に付けていない今の晴明には酷だろう。年老いたその身体を茵に横たえさせる責任が紅蓮にはある。だが、すっかり思索に没頭した晴明に言うことを聞かせるのは至難の業だった。
さてどうするかと似合わないため息をついて、紅蓮はそういえばと顔を上げた。
晴明はここ一年ばかり身体を酷使していた。年齢を重ね人並みに体力が落ちたその身で、さらに魂すら操っていた。その負担は凌壽が来襲する以前から表面化し、彼はこの数か月体調を崩しがちだった。それなのに。
あの幼い天狐が式になってから、晴明の顔色が良くなった気がする。
(……いや、気のせいだろう)
紅蓮は頭を振ってその考えを否定した。天狐が来てからまだたった五日だ、偶然晴明の調子が良くなっただけだろう。
ただ、調子がいいからといって油断はできない。今日は「遠見がしたい」という主の望みを汲み取って渋々了承したが、心労を重ねてもらっては意味がない。やはり当分遠見も禁止だ。
そう、気にかかることはいくらでもある。長い間独りきりで凌壽の魔手から逃れてきたという天狐は、自身の証言通り集団戦に慣れていないようだった。……これは致命的な欠点だ。彼ひとりで凌壽と渡り合うことができないのなら、紅蓮たち十二神将と協力して凌壽を倒さねばならないのに。人間である丞按にすら遅れを取っているような状況では困るのだ。
二つ目の不安材料は、怪僧・丞按に対する妙な躊躇いだ。せっかくの奇襲戦だというのに悠長に言葉を交わしたり、最後まで全力を振るわずに終わるなど、明らかに手心を加えている様子だった。攻撃する素振りもなく、ほぼ束縛するためだけの術を行使していたことからも、その意図は明白だった。
――丞按を殺せるのは、彼しかいないというのに。
理由は分からない。だが、主である晴明が命を下せば嫌でも話すだろう。晴明がその選択をするかどうかは、また別の話だが。
紅蓮はそこまで冷静に判断すると、無意識に額の金冠に触れた。
指先に感じるひんやりとした金属の温度。
何のために、それが存在しているのか。
そうして、彼はやっと、己の関心事に目を向けることができた。
あの天狐の身体に触れた時に感じた、微かな違和感。その正体をずっと探っていた。頼りない皮膚と肉と骨、それらの感触と、発される霊気の齟齬。ずっと不思議に思っていた、その答えがついに示されたのだ。
(できそこないの、天狐)
霊力も血も魂も、彼を形作っているほとんどの要素が声高に叫んでいる。彼は妖なのだと、天狐なのだと。なのにただひとつだけ、その中でたったひとつだけ、裏切りの声が大きく木霊していたのだ。
ヒトと同じ脆さで存在する、肉体が。
十二神将として現世に顕れた時からの記憶をつぶさに振り返ってみても、同じような例は見たことも聞いたこともなかった。普通妖はたとえ雑鬼であろうとも通常の物理法則では傷付けられない体を有している。その体に傷を付けられるのは、あまねく人にあらざるもの――そして一握りの霊能力者たちだけだ。
しかし、昌浩がそうでないのなら。
それは――
連載している「朧月夜」読みました!
天狐化した昌浩が紅蓮を意識しているのが、可愛かったですw
十二神将たち、特に玄武と太陰が昌浩にちょっとずつ近づいていっているのをみると、にやにやが止まりませんでした!
サイトの復活も心待ちにしてます。
仕事が忙しいとありましたが、お体に気をつけて頑張ってください
愚作をお読みくださりましてありがとうございます。遅筆で申し訳ありません……
ちなみに今は研修中の身ですがちょっと余裕が出てきたので、
仕事の合間を縫いつつちまちまと続きを書いている途中です。
ちなみに太陰と玄武が積極的なのは仕様ですwww
ショタもロリも好きですサーセンwwww
いえ、真面目に話をすると、十二神将の面子の中で
興味を持つと一番積極的になるのは太陰かなあと思ったので。
玄武は太陰に引きずられている格好ですね。
まあちびっこが仲良しだと絵が可愛いよねってほくそ笑んでたのも事実ですが。
とりあえず十二神将全員の台詞と動きを書くのが目標の一つでもあるので、
まだ台詞のないひとはこれからです。
ぐっさんがデレるところまで早く書きたいですね。
更新のない日記ブログと化している現状を打破したいという考えはあります。
なので、拍手用SSを5本書けたら倉庫状態のサイトを繋げて朧月夜以外も
展示したいなーと予定しております。
なんですけど。
拍手…さくっと書けてません…(汗)
それでは体調も気をつけて、あんまり無理しないようにしていきますね。
もうちょいしたら第7章(2)上げたいです。
「朧月夜」読みました!とても、面白かったです。今でも、何回も読み返してます。続きが楽しみです!
これからも応援してます。健康第一に元気に頑張ってください!!
小説、大好きです!!
失礼な言葉遣いで申し訳ありませんでした!
愚作をお褒め頂き誠にありがとうございます。……そして続き書けてなくてごめんなさい……(ルーズリーフの書きかけを眺めつつ)
いえ、自分の力量が足らないばかりに、キャラの心情構成と描写が思った以上に難しい状態になりまして。現在手直し中であります。ちまちま進めてはいるのですが、長編ってムズカシイですね……。プロって凄いなあとしみじみ噛み締める次第にございます。
応援のお言葉、大変嬉しく思っております。そちらも良いお年をお過ごしくださいね。
それではコメント、ありがとうございました。
朧月夜読ませていただきました。
とても私のツボでした。
続きを楽しみにしています。
忙しいそうですが、無理せず頑張ってください。
流石に、今年中には! 完結させたいなあと思っております。バリバリ書こう、そうしよう。
すごく好きですヾヾ(*´∀`*)
読みながら自分のテンションが上がっていくのが自覚できます……。
これから季節の変わり目ですが、体調なども、気をつけてください。
更新、、楽しみに待たせていただきます!
素敵な物語をありがとうございます><
しかもテンション上がるだなんて! いやだわ! 私などには勿体無いお言葉です…本当にありがとうございます。
現状報告をすると、ヒッキー時代の騰蛇さんが果てしなく面倒くさい思考をしていらっしゃるおかげで更新が止まっておりましたが、なんとか筋道立てて動いてくれる方向にやっと行ってくれたので、続きをボチボチと書いている状況になります。
なるたけ早く紅昌展開に持って行きたいのは山々なのですが、あの面倒くさい人がなかなかデレてくれないので書いてるこっちもイライラです。本当にめんどくさい男なんですけどあの人…!
とりあえず、バレンタイン明けに一つ短編をサイトに載せたいなあと考えております。お待ち頂けたら光栄です。
ヒッキー紅蓮さんですか!あの人書きづらいですよね……!見てるともやもや……?じらすなよっ!ってつっこみたくなります(笑)
なんというか……天孤昌浩可愛いですヾヾ(*´∀`*)
これからもがんばってくださいっ!
続きもなんとか早め早めに上げて行きたいです。とりあえず次章は遊戯王で言うところのバトルフェイズなので、殺陣を考えるのも大変なんですけど、心理フェイズよりはまだ…なんとかなる…! はずです(笑)