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 兄は遅れてやってきた。俺に笑いかける顔は幼い頃に見たのと同じ、胡散臭くて気持ち悪い笑顔だった。いや、むしろ酷くなっていた。皮膚一枚の下にどろどろした鬱屈を秘めていて、つついたら弾けてしまいそうだった。なんでみんな兄が抱え込んでいる憎悪に気づかないんだろうと、俺は昔みたいに怯えた。
 姉に言ったことがあるのだ。兄は危険だと。いつかあいつはみんなを食べてしまうと。けど姉は哀しそうな顔をして、お前まであいつを信じないのかと泣いた。姉の泣くところなどそれが初めてで、俺はそれ以上何も言えなかった。
 ――あの時何千という言葉を尽くしてでも姉を説得するべきだったと、今にして思う。そうしたら、未来は少しばかり変わっていたかもしれない。

 里に戻ってから数日経った後の、蒸し暑いある日。俺は兄に呼ばれ、相談したいことがあると言われて里から連れ出された。
 数は少なかったが、幼い頃、何度か兄に手を引かれた記憶があった。蜥蜴や蛇みたいに乾いて冷たい指。その時もそうだった。俺は抵抗せず、手を引かれるまま里を出て、青く広がる草原を渡った。もちろん、心では兄に恐怖を覚えたままで。
 怖がっているのなら抗えばよかったのに、何故そうしなかったかと疑問に思うだろう。俺は――俺は、きっと、その時まで兄を信じていたのだ。
 兄の心の奥底から湧き出る憎しみを、俺は最初から知っていた。だから怖かった。だけど同時に、兄は自分に対して危害を加えないだろうと思っていた。兄の眼差しが、差し伸べられる手が、それを物語っていたからだ。でも、その見通しがあまりに甘かったと気づくのはすぐのことだった。
 里からどんどん引き離され、人影が見えなくなり、本当に二人きりになってから、遠く離れた草原の真ん中で兄は足を止めた。俺は微かに震えながら兄の指を引き、蚊の泣くような声で、「にいさん、」と呼んだ。
 辺りは昨夜降った雨のせいか噎せかえるような草いきれで満ちていた。降り注ぐ陽光はきつく、ちりちりと肌を焼いて痛いほどだった。もしかしたら太陽以外のものも俺の肌を粟立たせていたのかもしれない。 兄はぞっとするような優しい笑みを浮かべて、俺を振り返った。
「昌浩」
 反射的に一歩下がろうとして、囁かれた言霊に足を囚われる。仮名を呼ばれただけなのに拘束されてしまった体を、俺は呆然と見下ろした。兄の力は俺よりも余程強かったのだ。
 兄の手が伸び、俺の髪を掬う。薄く血色の悪い唇が寄せられる。自分の体の一部に触れられることに、俺は形容し難い嫌悪感を覚えた。
「にいさん、なにを」
「お前の痛がることはしないさ。傷つけもしない。大丈夫だ、優しくしてやるから」
「……なにするつもり。やめろよ、」
「嫌がっても無駄さ。声を上げてもな。俺以外には届かない」
 俺ははっとした。周囲に結界が張ってあったのだ。みるみる怯えの色を濃くする俺を、兄は満足げに笑って眺めた。握られたままだった髪の毛が引っ張られ引き寄せられる。俺を胸元に抱き込んで、兄はただただ楽しそうに笑っていた。
 兄は宣言したとおり、俺の身体には傷一つ付けなかった。痛くもしなかった。ゆっくりと俺の身体を征服していく兄の手つきはひたすらに優しかった。そうして、俺の意思とは無関係に性感が暴かれていった。
 泣き叫び、許しを懇願し、四肢で抵抗を続け、家族の名を呼んだ。なのに助けは来なかった。父も、母も、姉も、誰一人として俺の声に気付くことはなかった。魂を呼び、血に響きを乗せ、声を届けろと俺は姉に教えられていた。その通りにやったのに、誰も応えてくれなかった。
 俺は裏切られた。
 絶望の波濤に叩きつけられた心が息を吹き返したのは、全ての責めが終わった後だった。

 最中のことを、俺はあまり覚えてはいない。辛くて悲しくて怖いばかりだったから、多分頭が途中で記憶を残すことを拒否したんだろう。いったい何刻の間その行為が続いていたのかもわからない。気がつけば、兄は自分一人だけ乱れた衣服を整えていた。整え終えると彼は振り返り、俺の耳元で何事かを囁いてから口付けをしてきた。
 その時兄が口にした言葉を俺は確かに聞いているはずなのに、今に至るまで一度も思い出すことはできていない。なんだか、とても大事なことを言われた気がするのだけれど、……忘れてしまった。
 いつの間にか兄はいなくなっていた。同じように、いつの間にか太陽も沈んでいた。満天の星空が空を覆い、月が宙天にさしかかる頃、俺はようやく身を起こすことができた。
 頭はまだぼんやりとしていて、心は死にかけていた。だけど俺は解放されて自由だった。やっと自分の意思で動かせるようになった体を、俺はひとつひとつ改めた。そうすることで、奪われたものを順々に取り戻そうと考えたのだ。
 全部脱がされた服。
 うっすらと痣のできた手首。
 熱をもって腫れぼったい両目。
 からからに乾いた喉。
 ひどく重い下肢に、白く汚れた腹。
 立ち上がるが力が入らず、俺はよろめいた。その拍子に自分の中から兄の放ったものが大量に零れ落ちる。両足をつたう生暖かい液体はどろどろとしていて、泡が混じっていた。留まらず排出されていく液体の感覚に、ぶるりと震える。
 しばらくして、俺は近くに渓流があったことを思い出しふらふらと歩きだした。――水が欲しかった。喉が乾いていたから、冷たい水で潤したかったのだ。すぐに流れは見つかり、足を取られないよう気をつけながら浅瀬でうずくまる。近くの山から流れてくる清冽な水が下半身を冷やした。折角見つけたのに、なぜだかその頃にはもう飲む気は起こらなかった。
 体中が冷えていく。それに従って、だんだんと、自分がいったい何をされたのか、認識することができた。

 ――俺は汚されたのだ。

 気付いた瞬間、身体をくの字に折り曲げて吐いていた。だって、全てを覚えていないわけではなかったからだ。断片的な記憶が脳裏で明滅する。その欠片だけで、嘔吐するには十分な内容だった。
 肌を掻きむしった。兄に触られた全身が厭わしかった。性器を擦り上げられて自分の意思とは関係なく精を吐き出してしまったことも、中を探られてあられもない声を上げてしまったことも、奥を突かれて自分から腰を揺らしたことも、全て。
 兄は徹頭徹尾、最初の宣言通りに俺を扱った。恐怖で縮こまる身体を労り、時間をかけて慣らし、心の動きと関係なく反応が起きるようになってからも、ずっとずっと優しかった。
 いっそ酷くしてくれればよかったのだ。そうしたら、自分自身に対する嫌悪感でこんなにも死にたくはならなかったのに。
 泣きながら身体を洗い、芯が凍りつくまで水の中で清め、震えながら恐々と服を拾いに行き、臭いが取れるまで濯いだ。一連の作業をしながらずっと考えていたのは、これからのことだった。
 兄にされたことを誰かに話す? できるわけなかった。その頃の俺は子供の範疇に入っていたが、兄としたことが何をするためのものかは知っていた。あれは愛を囁いたり子作りをする行為で、双方の合意の元に男女が行うべき物だった。間違っても男の兄弟がするものではない。俺は禁忌を犯してしまったのだ。たとえそれが強要されて始まったものだとしても、俺がしてしまったことに変わりはない。
 口を噤んで里に戻ったとしても、兄と顔を合わせなければいけない。そんなのはごめんだった。自分を強姦した男と平然と話す器量はなかった。途方に暮れている間に太陽は顔を出し、眩しさに眼底が痛んで俺は顔を覆った。本当に、どうしたらいいのかわからなかったのだ。
 半日悩み抜いて、結局俺は里に戻ることに決めた。
 今出奔したら両親は俺を捜して奔走するに違いない。九尾の軍勢が近くまで来ているのにそんな危ない真似をさせるわけにはいかなかった。途中兄が出てきやしないかと怯えながらとぼとぼと両親の元へ帰ると、二人はまっさきに俺の顔色を心配した。
 気分でも悪いのか、病でも得たのかと根掘り葉掘り聞かれたが、俺は半分嘘をついてごまかした。九尾の軍を偵察していたから寝ていないと言ったのだ。寝ていないのだけは本当だった。母はほっとし、父は危ないことをするなと俺を叱った。俺は素直に謝ってから、二人に心配ごとを聞いた。
「兄さんはどこ?」
 両親は、あまり仲が良いとはいえない兄弟の居場所を尋ねるのを不思議に思ったようだが、答えてくれた。姉に大事な話があるといって、里から遠く離れた場所へ呼び出したのだという。それでついさっき、姉は出ていったばかりなのだとも。
 俺は急に厭な予感を抱いて押し黙った。一瞬、自分にしたのと同じことを兄が姉に対して行うのではないかと思ったのだ。だが姉は兄よりもずっと強い。であれば、不意をついてもっと酷いことをするのではないだろうか。

 ――例えば。

 心臓が氷の楔で打たれたようにしんと痛み、俺は駆けだした。驚いた両親が後から追ってくる。名前を呼ばれても立ち止まることはしなかったけれど、父に腕を引かれて足を止めた。もどかしさで泣きそうになりながら、俺は父に訴えた。
「兄さんが姉さんを殺してしまうかもしれない」
 父はばかなことを、と言いかけて黙った。兄はなんだかんだで家族に情を示していたが、その方向性は不器用だった。ねじ曲がっていたと言ってもいい。とても不安定なひとだった。その不安定な天秤が悪い方向へ大きく傾いたのではと感づいたんだろう。
 予感は俺の鼓動を急かしてけたたましく警鐘を鳴らす。俺の必死な顔を見て、父は頷くと背中に俺を乗せて空へ翔け上がった。真っ青になった母も後に続く。高い空の上は鮮やかすぎるくらい見事な茜色で染まっていた。
 父は速かった。翔けながら姉に呼びかけているうちに、兄と姉がいるという場所へ辿り着いた。父の呼びかけに、姉は兄に背を向けて上空を見上げた。その時だった。
 兄が背後から姉の胸を貫いたのだ。
 姉は息を呑んで背後を振り返ると、愕然として震えていた。兄は嬉しそうに笑って腕を引き抜くと、姉から天珠を奪った。血に塗れた美しい天狐の心臓。あいつはその血を舐めて笑っていた。姉は天珠を喪ってもなお美しく、銀色の髪が流水のようにうねって揺れていた。
 俺はその様をただ見ていることしかできなかった。
 髪の毛がざわりと逆立ち、父の肩を掴んでいた指が震えた。目の前でゆっくりと倒れ伏していく姉と、その向こうで笑っている兄。認めた瞬間に俺は父の背から地面に飛び降りた。つい先ほどまで絶望と恐怖に満ちていた心がどろどろと煮立っていく。
 兄に対して、初めて恐怖以外の感情を覚えた瞬間だった。
 父と母は俺よりも速く兄に突進した。自分の娘の天珠を奪い返そうとして、自分の息子に攻撃した。だけど兄は、両親より強かった。鈍い音を立ててはね飛ばされた母が岩に叩きつけられる。息が詰まって咳きこむ母の前にやってくると兄は爪を伸ばした。そうはさせまいと父が飛びかかり、母から兄を引き剥がす。だがすぐに兄から重たい一撃を腹に喰らい、父は衝撃でよろめいた。
 兄が右手を振りかぶる。
 俺は何も考えてはいなかった。ただ無我夢中だった。家族の窮地に、自分が何をできるのかも考えていなかった。だから俺は衝動のままに、父と兄の間に飛びこんだ。飛びこんで、形の成さないままの霊力で殴りつけた。
 あいつはまともに俺の攻撃を受けて、ぽかんと目を見開いていた。上半身を仰け反らせて手が泳ぎ、一歩後退する。奇術を初めて見た人間の子供のように驚いてから、兄は嬉しげに笑った。
 その後に何が起こったのか、俺は覚えていない。

 知らない間に意識が消失していたらしい。出し抜けに目覚めは訪れた。ついさっきまで眼前にいたはずの兄を捜すが、目が霞んでよくわからない。どうしてか頭と喉が酷く痛み、倦怠感があった。霊力もひどく弱っている。体全体で風を感じ、移動していることに気づいた。腕と肩が引っ張られて辛く、誰かに肩を貸されているようだ。顔を上げると、すぐ近くに呼吸を乱した姉のかんばせが目に入った。びっくりして姉を呼ぼうとする。が、声が出ず噎せてしまった。姉は俺が覚醒したのにようやく気付いたのか、こちらを見下ろして担ぎなおした。
 あの時確かに心臓を抉られた姉が、生きている。
 ほっとして気が緩むと腕の力も抜けてしまった。姉が慌てて足を止め、俺を引っ張り起こす。やっと視力が回復した俺の目は、自分たちが尖った岩山の中腹にいることを伝えた。姉は息をするのも苦しそうな様子だった。それもそのはず、彼女の胸にはまだ塞がりきらない風穴がぽっかりと空いて、血を流していた。
 顔色が変わったことを察した姉が、肩を上下しながらも自分の右手を示してみせる。そこには血で汚れた天珠が握りしめられていた。
「……私の、ことは、気にするな」
 ひゅうひゅうと喉笛を鳴らしながら、姉はそう言った。
「大丈夫だ……私の天珠だ」
 そうはいっても、姉が大怪我をしているのに代わりはない。俺は咄嗟に吸気の術で姉を癒そうとした。しかし、それは叶わなかった。
 喉から胸にかけて激痛が走り、猛烈な吐き気が俺を襲った。支えられたまま地面に熱い固まりを吐き出す。びちゃりと弾けたそれは真っ赤な色をしていて、鉄の臭いがした。
 俺は愕然と、自分が吐き出した血液を見下ろした。

 死ぬんだろうか。

 『死』は俺にとって縁近いものであったが、同時に最も縁遠いものでもあった。死にかければ近くの命を奪って勝手に回復する俺は、自分の死というものをあまり考えたことがなかった。だが、その時は違った。 ――術が発動しない。
 喉に凝った『何か』が俺の霊力を弱め、さらに吸気の術の発動を阻害している。重い手で喉に触れると、ぬるりとした血の感触があった。さらにそこにはぱっくりと割れた大きな傷があって、じわじわと血を零し続けている。いつ付けられたのか、全く記憶にない。
 けれど、自分の内部に巣くう『何か』の正体は朧気に察することができた。
「いいか……術は使うな。絶対にだ」
 姉が俺の手を握りしめ言い聞かせた。
「誰が襲ってきても、お前は手出しをするな。私がお前を護る。もし……私が死んだら、お前は私の天珠を持って逃げろ。その場で使ってもいい。いいか、凌壽や九尾には決して渡すな」
 凌壽。
 自分を、姉を、両親を裏切った男。
 実の兄。
 そうだ、両親はどうなったのだろう。凌壽も。それに何故、いきなり凌壽はこんな凶行を引き起こしたのだ。
 姉は悔しげに唇を噛みしめた。
「お前が凌壽に殺されかけて、あいつに術をかけた。父さんと母さんがその隙に私の天珠を取り返したんだ。あいつは今、お前から術をかけられて弱っている。……父さんたちは、私たちを逃がすため、まだあいつと戦っている」
 俺は咄嗟に背後を振り返った。既に周囲は闇に落ち、望月が夜空の中で煌々と光を投げかけている。
「行くぞ。……足を止めている、暇など、ない……」
 姉が喘ぎながら俺の肩を支え、跳躍する。瞬間、俺たちは山陰に赤い炎とどす黒い妖気を目撃した。
 空中を滑りながら姉が呆然と呟く。
「檮杌(とうこつ)……!」
 大陸の四凶の一つ、檮杌。人の頭に虎のような身体を持ち、猪のような長い牙、長い尻尾を持つという大妖が、俺たちの里を襲っていた。その他にも夥しい数の妖が集結し、群を成して加勢している。
 常に破壊を求めている四凶は、立ち向かってくる天狐を力任せに蹴散らしていた。
「九尾に……与したというのか……」
 姉が苦々しく吐き捨てる。滅びゆく里に俺は瞠目していた。
 ――おそらくは、これが凌壽の狙いだったのだろう。
 あいつは俺たち家族を裏切ったのではない。一族全てを裏切ったのだ。姉を騙して里から離れさせ、その間に九尾の軍勢を向かわせる。同時に天狐の中で最も強い姉を殺し、一族を滅ぼしやすくするというのが計画だったのだ。
 凌壽の一族に対する憎しみは、……こんなにも、激しいものだった。俺はあいつの心に気づいていたのに、何もできなかった。何も変えられなかった。怖いばかりで、何もしなかった――。
 満月の隣で、妖星が青白く燃え立っている。運命を変えられなかったことを呪うように。

 里から離れ、俺たちはひたすら東へと突き進んだ。途中九尾の軍に追いつかれるも、死にものぐるいでそれらを殺し続けた。姉が意識を失いかければ俺が彼女を支え、残り少ない霊力を費やして退ける。叱られても聞かなかった。姉を死なせることだけはどうしても嫌だった。
 二人して息も絶え絶えに海を越えると、ついに追っ手の姿は見えなくなった。
 けれど、それが限界だった。

 俺は霊力を消耗しきっていた。吸気の術は未だ行使できず、喉の傷を塞ぐことができない。血も、体力も、霊力も、何もかもが残り少なくなっていた。
 姉も同じような状態だった。俺よりも多くの追っ手を倒していた彼女の霊力は底をつき、胸の傷を癒すだけの余裕が既になかった。ずっと気を張っていたからその状態でも持ちこたえていたが、追っ手を振りきったことで気力が折れてしまった。
 島国の森の中、生い茂る葛の葉に埋もれて、俺たちは互いを抱きしめ合っていた。
 俺の体力は少ない。おそらくは先に死ぬだろう。だけど、姉の天珠の光もだんだんと弱まっていた。あれは、彼女の心臓そのものだ。このままでは、姉もゆっくりと弱って死んでしまうだろう。
 吸気の術は使えない。ならばと、俺は最後の力を振り絞って呼びかけた。
「……ねえさん、」
 蒼い瞳が動いて、俺を見た。
「俺の……天珠を、使いなよ」
 血で汚れた唇が、ばかな、と囁いて歪む。俺はできるだけ明るく笑おうとした。
「……たぶん……俺のほうが、先に、死ぬから……。だからさ、使ってよ……姉さんならいいよ……」
 森の中から見上げる夜空の先、梢の向こうで輝く満月は真っ白だった。早いものだ、あの滅びの日からもう一月が経ったのだ。
「ああ……でも、俺、ちゃんと天珠あるのかな……」
 自嘲して目を閉じると、姉が俺の身体を震える手で引き寄せた。死ぬなと耳元で囁かれる。姉の身体は冷たくて、自分も同じくらい冷たかった。
 死ぬときに術が発動しませんように。
 そう願いながら、眠気に負けて俺は意識を落とした。――直前に、獣のものだろうか、草をかき分ける音を耳にしながら。

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