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メリクリー! てなわけで、クリスマスに良い子の皆にサンタさんからプレゼントがやってきたよ! なんと紅昌18禁エロだー、やったねたえちゃん!

ついったでblue.のギンコさんが悶えてた独占欲嫉妬紅蓮のおはなしなんだけど、あんまり独占欲丸出しにならなかったね! ごめんなさい! そのかわりサンタさんがエロを頑張ってくれたよ!
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長編・朧月夜、第九章(4)を更新しました。

11月中に上げれるかなー、とか軽く考えててすんませんでした。結局2010年残り10日切った状態でのアップですよ…
けどこれで第九章終了です。しぶといあの人ともお別れで大変嬉しいです(ファンの人ごめんなさい)。けどバトルはまだ続くんじゃよ…

「まっ……!」
 どうしようもない既視感が紅蓮の肺を満たしていく。心臓の周りで渦を巻く。まだ半刻も経っていない過去が明滅する。伸ばした腕を無力感と絶望が掴んだ気がした。
 ようやく手に入れたものを奪われる予感に、指が震える。
(俺は――)
 彼を救うと決めた。他でもない紅蓮自身が決めた。言葉にしないだけで、それは誓いだった――ならば、躊躇などするわけにはいかない。
 それでも、人に対して危害を加えることはどうしてもできなかった。
 紅蓮の手を赤く染めた罪業は消えない。もう二度も生みの親を手にかけたのだ。紅蓮の心の奥底にはいつだって重しが、枷が嵌められて、自身を痛めつけている。
 今この時、三度目を犯す勇気は、紅蓮になかった。
 だが――だが、誓いを破ることも、紅蓮にはできなかったのだ。
 神気が渦巻く。誓いが導いていく。
 勾陳に釘を刺されたばかりで動かなかった手が、欲求に従って真っ赤な火を熾す。
(……間に合え!)
 一瞬で顕現した炎蛇が空を滑って、今にも落とされそうな三鈷杵へと突進した。
 けれど、紅蓮は気づいていなかった。

 今この瞬間にも、昌浩の瞳が凍ったまま動かないことに。

 短くとも、鋭く研がれた刃が振り下ろされる。防ぐものはなく、そのまま三鈷杵は昌浩の頭蓋に突き刺さった――はずだった。
 脳天に命中した、と見えたその瞬間。
 鈍い音を立てていたのは三鈷杵のほうだった。刃は昌浩ではなく、見えない壁に突き立てられていた。ぐにゃりと歪んだ空間が三鈷杵を飲み込み、鋼の砕ける音が甲高く響く。
 その中に、ほんの少し遅れて炎蛇が突っ込んだ。
 人ならざる三つの力が一瞬だけ拮抗した。しかしせめぎ合いは一瞬にすぎず、すぐに混沌と混じりあって崩壊する。破れた堤から迸る濁流のように、霊力が丞按と昌浩の間で爆裂した。
「……っ!」
 昌浩の小柄な身体が、爆風に耐えきれずに吹っ飛んだ。微かな悲鳴。宙に舞う赤。それを目にし、紅蓮の心臓がぎゅっと絞られる。
 腕を伸ばしたままに紅蓮は駆け出した。昌浩が地面に叩きつけられる直前に、すくい上げるようにしてなんとか受け止める。抱えながら身を起こすと、昌浩は意識を失うことなく戦意を両眼に漲らせ、素早く立ち上がった。
「昌浩、」
「平気だ」
 きっぱりと、彼は振り向きもせずに短く切って捨てる。額はぱっくりと割れ、鮮血がだらだらと零れ落ちているにも関わらず。が、それとは別に、微かに漂ってくる鉄臭を紅蓮は察知した。その出所も。
 燃えるような焦燥が紅蓮の心臓を掴んだ。
 彼の古傷が、再び開き始めている。
 神将でなくとも嗅ぎ取れるほど強まっていく血の臭いが、やがてそれだけに留まらないだろうことは容易に想像がついた。――残された時が多くないことも。
 じきに昌浩は動けなくなる。
 それは確信だった。

 思わず、紅蓮は昌浩の腕を引き留めていた。
 大きな目が掴まれた腕に向く。ついで紅蓮へ。
 共に口を利かぬまま、二人の視線が数瞬絡み合った。
 永遠にも思えた沈黙が続くが――それを破ったのは紅蓮だった。
「俺が――」
 紅蓮の唇から言葉が零れる。彼はそのまま続けようとした。
 が、それは中途で切れて転がった。

(――俺が、代わりに、)

 代わりに。
 代わりに、何をするのだ?
 突発的に口を突いて出た衝動は、伴ってこない覚悟をあざ笑うように胸中で渦巻いた。唇も、舌も、凍り付いたまま動こうとしない。額を飾っている金冠がひどく冷たく感じられた。心臓が耳の近くで痛いほどに鳴り響く。こんなに急かされているのに、脳は痺れてまともな思考を行わない。
 覚悟が足りない。
 理を犯す勇気も、踏み出した先の荒れ地を踏破する覚悟も、今の紅蓮には絶対的に足りていない。
 昌浩のほうが紅蓮よりも、ずっとずっと強い覚悟で臨んでいた。彼は最初からこうなることを予想していたに違いない。だからこそ、全ての容赦も躊躇もかなぐり捨てて、慈悲の欠片もなく力を奮うことができるのだ。
 紅蓮が黙りこくってしまった間、昌浩は何も言わずにただ見上げていた。しかし動揺の見られない双眸がふと瞬き、背後を振り返る。
「騰蛇はそこにいて」
 言うなり彼は駆けだした。
 つなぎ止めていたはずの紅蓮の腕を、ひどくあっさりとふりほどいて。
 言霊も何も込められていないはずなのに、その音は紅蓮の足を縫い止めて放さなかった。
 

◆◆◆


 昌浩と同じように爆炎に押されて吹っ飛んだ丞按は、けれど昌浩のように無様に転がったりなどはしていなかった。僧衣の裾を翻して着地するなり右手で三鈷杵を構え、生き残った幻妖が神将たちの視界を塞ぐよう操る。八体もの怪物が主人を守護するように展開し、大きな体躯で僧の姿を隠した。
 六合と勾陳がそれぞれの武具の切っ先を向けるが、幻妖の間合いを読めずに踏み込めないでいる。戦況が膠着しかけた、その時だった。
「勾陳、貸して!」
 紅蓮から身を離した昌浩が駆け抜けざま、地面に突き立ったままだった筆架叉の片割れを引き抜いた。その横を太い炎蛇がさっと追い越し、幻妖の一体に牙を立てる。毛皮の焦げる臭いと共に、耳障りな唸り声が銅鑼のように響いて獣の群がざわめいた。
 幻妖たちが動く。
 炎蛇に巻き付かれた幻妖がぶわりと妖気を迸らせた。赤い焔が弾けて消える。同時に、群から離れた二体が頭から六合たちに突っ込んできた。
 躱すは容易い。だが前線の二人が幻妖の突破を許してしまえば、背後の結界で守られている中宮への接近を許してしまう。
 六合と勾陳の神気が膨れ上がった。それぞれが真っ正面から幻妖の牙と爪を受け止める。力押しで負ける気は毛頭なかったが、質量の差は如何ともしがたかった。高まった神気が幻妖の表皮を鋭く裂く。闇色の毛の下から現れた桃色の肉がすぐに真っ赤に染まる、にも関わらず、幻妖は戦意を落とさなかった。
 ぐわりと開いた大きなあぎとは、勾陳の筆架叉一本だけで防ぐには分が悪い。苛立ちにまみれた彼女の眼が、一瞬だけ金色に輝いた。
 十二神将二番手の甚大な通力が、圧倒的な衝撃と共に炸裂する。
 六合が押さえていたもう一体の幻妖も巻き込んで、衝撃波が地面を立ち割った。すかさず横手から紅蓮の炎蛇が飛び込み、深手を負った幻妖に燃え盛る牙を差し込んでいく。
 一方丞按を押し隠す幻妖たちに動きはない。仲間がやられていくのを唸りながら眺めているだけだ。

 その場所に、昌浩はまっすぐ突っ込んでいった。

 武器など持ったことはなかった。そもそも天狐は妖であるから、武器など必要ではない。誇るべきは自身の霊力と肉体であり、道具の使用などは無粋の極たるものだ。あの凌壽だって、その範疇にまだ収まっている。
 初めて手にした武器。扱い方など、まるでわからない。
 だが、武器を手にすることで霊力の御し方に変化が起きることは知っていた。
 走りながら筆架叉に力を込める。神将の武器であるその刃は、思っていたよりもすぐに天狐の霊力に馴染んだ。白炎が陽炎のように刀身にまとわりついていく――十分に練ったその霊力を、昌浩は一動作で解放させた。
 まるで鉄砲水だった。怒濤の如く白炎が広がる。一文字に薙ぎ払われた刃の軌跡を追って、放射状に広がっていく。洪水のように、全ての幻妖を飲み込んでいく。
 獣たちが甲高い悲鳴を上げた――消滅はしない。丞按に与えられた妖力のおかげだ。ただ、代わりに炎に炙られて動作が緩慢になっている。
 十二神将にとっては、それで十分だった。
 勾陳の一撃で深手を負わされた幻妖の一体が起き上がる。太い四肢は先ほどよりも明らかに重みを増していた。その真上に影が落ちる。
「―――っ!」
 鋭い呼気と共に、幻妖の頭蓋に筆架叉が根本まで埋まる。幻妖の全身がびくりと痙攣した。
 筆架叉を手放した勾陳は間髪入れず地面に降り立ち、その長い足を振り抜いた。藍色の帯が弧を描き、踵が幻妖の頸椎を蹴り砕く。
 同時に、もう一体の幻妖の首が銀槍によって切り落とされた。
 幻妖たちは確実に弱体化している。
 丞按を取り囲む幻妖の一角にも、白銀の龍が炎鱗を撒き散らしながら絡み突いていた。じゅうじゅうと肉の焼ける音と異臭が立ちこめ、とぐろに巻かれた獣がもがき苦しむ。すぐに動けなくなり、炭化した幾体もの骸が転がる。
 幻妖の群が破られたことで間隙が生まれた。昌浩はただひたすらに、丞按だけを目指してそこを駆け抜ける。僧の姿は目前だった。幻妖も無視して、間をすり抜ける。
 背後は考えなかった。
 何事か真言を唱えながら、丞按は三鈷杵を逆手に構えている。逆に昌浩は筆架叉を構えなかった。何も持っていない左手を振りかぶる。振りかぶって、手を伸ばす。
 その手のひらに霊力が輝くのを見切った丞按は、三鈷杵を昌浩の手に突き刺すように振るった。
「――サラバビギナン・ウン・タラタ・カン・マン!!」
 しかし。
 勝敗を決する瞬間は、やはり呆気ないものだった。
「砕!」
 たった一言。たったそれだけの言葉に込められた言霊が、不動明王の真言を打ち砕く。
 耐えきれず三鈷杵が破片と化して爆ぜた。手の中の確かな手応えを失って、丞按が呆然とする――その腹を、筆架叉が刺し貫いた。
「がっ……」
 羅刹の力を解き放ったときは違う灼熱が、丞按の胃の腑を焼いてこみ上げる。嘔吐感に負け、彼は思わず口を開けた。口腔を熱い液体が満たしていく。鮮やかな血液が、嫌な音と共にごぶりと吐き出される。
 刃はなおも押し進められていた。
 頭上から滴り落ちる鮮血が昌浩の額を濡らす。それでも彼はやめなかった――片目に血が入って見えなくなっても、髪が赤く染まっても。
 筆架叉の刃が根本まで肉に埋まるまで、全身の力を振り絞って。

 神将たちがその光景を目にしたのは、最後の幻妖を倒し終えたその時だった。
 さっと紅蓮の顔が青褪める。駆けつけようと足を踏み出す。が、昌浩自身の制止によって阻まれた。
「来るな……!」
 髪も、顔も、真っ赤な血に染まった昌浩が苦しげな声を発した。鉄臭にまみれた体にあるのは擦り傷だけ。彼自身は重傷ではない。わかっているのに、赤い色は紅蓮の記憶を否応なしに呼び覚ます。どうしようもなく心拍は高まっていく。嫌な予感しか降りてこない。
 昌浩の両腕は丞按の堅い手によってがっしりと掴まれていた。
「……ら、せつ」
 丞按の顎から血泡が垂れる。ひゅうひゅうと喉笛を鳴らしながら、丞按はまだ立っていた。そうしている間にも、昌浩の白い肌は丞按の血液によって汚されていく。その血が、不自然にぶくりと蠢いた。
「羅刹よ……こいつに……」
 両腕が咄嗟に跳ねそうになるのを、昌浩は無理矢理押さえ込んだ。
 丞按の血が、意思を持って流れ出ていく。昌浩の首の古傷から侵入を果たそうとしている。丞按の、最後の呪詛だ。
 今すぐにでも筆架叉を手放して解呪したくなる。全力でその本能をせき止め、昌浩は震える声で言霊を絞り出した。
「消えろ…!」
 同時に、全身の霊力を筆架叉を介して流し込む。丞按が――羅刹鳥が――耳障りな悲鳴を上げて仰け反った。この世のものでない、人間ではあり得ないものの絶叫。首の傷から広がっていた、植物の根のような呪いがぱきぱきと砕けていくのを昌浩は感覚した。呪詛の流れを手繰り、遡り、丞按の体内に渦巻く瘴気を消し去っていく。同時に、彼は滑る手で筆架叉を持ち直した。刃を横に倒し、押し広げる。傷口を横に裂いて、空気を入れる。
 確実な「死」を、この男に与えてやりたかった。

 ……やがて、長く響いていた悲鳴が途切れた。
 丞按の両手が重力に従ってだらりと外れる。上背のある頑健な体が揺れて、崩れ落ちる。
 のしかかってくる死体を支えきれずに、昌浩は丞按と折り重なったまま、仰向けに転倒した。

長編・朧月夜、第九章(3)を更新しました。

…だいぶ期間が空いちゃってすみませんでした。(4)は…今1000文字分清書し終わってます。多分全部で3000文字以上行きそうだなーと目処はついとります。11月中に上げたいですね。

そしていい加減戦闘に疲れてきた!飽きた!(オイ)

 時は少し遡る。
 示された綻びの場所へと皆が無言で駆ける中、昌浩はだんだんと顔色を悪くしていた。紅蓮が神足の速度を落とし覗き込むと、彼は青い顔で喉元を押さえ、か細い呼吸を続けていた。
 先程奪った生気だけでは足りなかったのだろうか。残された自分の体力を考えながら、紅蓮は抱いた腕の力を強めた。
「……やはりお前、まだ」
 回復が十分ではなかったのか、そう尋ねようとした。が、言葉は痛みで潤んだ眼差しに遮られた。
「――そうじゃ、ない」
 切れ切れに小さな答えが返る。「りょうじゅが……、」言って、彼は咳きこんだ。跳ねる小さな体を押さえこみ、紅蓮は思わず口走った。
「お前は戦うな」
 人間たる丞按の排除にどうしても昌浩が必要なことは重々承知していた。彼の力に頼らざるを得ないことも。それでも、この状態の彼を戦闘に参加させたくはなかった。
 だが、彼は首を横に振った。
「……何故」
 心のどこかで、自分の言葉なら受け入れてくれるだろうと考えていた紅蓮は衝撃を受けた。自覚すらしていなかった淡い期待。裏返せばそれはできたばかりの昌浩への信頼だったが――それを裏切られて、紅蓮はすっと心が冷えていくのを止められなかった。
「俺の仕事だから。……平気だよ」
 紅蓮の胸に頬を寄せて、細い声が答えを返す。痛みを堪えているのか、咳が治まっても昌浩は微かに表情を歪ませていた。
 到底信じられるような言葉ではない。けれど拒否された以上、紅蓮にはどうすることもできないのだ。――昌浩の代わりに丞按を殺すなど、できるわけがない。
 それを知っていて拒んだのだろうか。それが彼の思いやりだというのだろうか。
 喉元までこみ上げた詰問をなんとか呑み下した、その時だった。
「――いた」
 ぼそりと声が落ちた。
 訝しむ暇など欠片もない。さやかに過ぎる呟きが耳に届いた時にはもう、瞬き一つの時間で閃光が周囲を満たしていた。
 光が留まっていたのもまた僅かな間だった。網膜に赤い軌跡を描いて光の雨は前方へと一直線に突き進み――遠くでうずくまっていた何かを直撃した。ぎょっとした仲間たちが振り返る。
 放たれた十数個の拳大の光弾は半ば地面を抉り取り、そこにいた人間を結界ごと吹き飛ばしていた。
 容赦など微塵も存在してはいなかった。
 呆然としていた紅蓮の耳朶を、静謐な声が叩いた。
「下ろして」
 抗い難い何かがあった。
 自然と足が止まる。轡を嵌められたように声を出せぬ紅蓮の身体は、手綱を引かれた馬の如く従順に従った。
 言霊が込められているわけでもない単純な言の葉。拘束力などまるでないはずなのに、身体は操られて動いてしまう。その原動力がどこにあるのかわからず、紅蓮は困惑した。
 細い肢体が両腕から逃れ、するりと前へ歩を進める。直進――振り返った式神たちの間を抜け、俯せに倒れ動かない丞按へと。迷いなく。
 儚さなど消え失せて。
「手を出すな。……丞按は俺がやる」
 砂塵に紛れて皆の耳に届いたのは、感情という感情を削ぎ落とした、無機質な殺意だった。
 姿形はどこも変わっていない。その後ろ姿も、発する霊力の波動も。にも関わらず、目の前の少年はまるで知らない誰かのようだった。
 ほんの少し前に耳にしたばかりの彼の声が、もう思い出せない。
 無意識に紅蓮は呻いた。
 どんな者であれ、彼は人間を傷つけることを忌避していた。丞按に対してすら、なるべくなら殺さずにすませたいという手心が透けて見えた。こんなに真っ直ぐな敵意を抱いてはいなかった。
 その理由を尋ねたわけではない。が、推し量るのは簡単だった。
 彼は骨身に染みて知っているのだろう。人間という生き物がどれだけ壊れやすいのか、簡単に死に至る弱い生物かということを。
 実際に手をかけた紅蓮とは真逆の方法で。
 それを知っていながら――彼は自分自身にかけたはずの枷を今、取り除いている。

(ああ――)

 昌浩は、丞按を殺そうとしている。
 晴明が彼に下した命を知らないわけではなかった。十二神将たちでは手を出せない丞按に対し攻撃を加えるのが彼の役目だった。彼自身も納得し従っていた命令で、神将たち皆が昌浩に期待を寄せていた。紅蓮ですら例外ではなかった。
 だがどうだ、今まさに丞按を殺すべく歩みを進める彼の眼は。
 冷たく凝った闇がしんしんと触手を伸ばすように、昌浩の小さな身体から溢れ出る霊力が周囲を満たしていく。図らずも、その波動は仇敵たる凌壽によく似ていた。
 殺意に侵された黒い瞳はただ丞按だけを見据えている。
 彼に理はない。そのはずだった。だから昌浩だけが丞按を害すことができると誰もが考えていた。
 体のいい生け贄として身代わりに使った彼に、理よりも重い心の枷が嵌められているなど気づきもしないで。
 紅蓮を庇って丞按に殺され、その守るべき紅蓮の命を得て甦ったが故に、昌浩は丞按を憎んでいる。
 枷を取り除いてしまっている。
 このまま彼の思うままに力を奮わせたとして――枷を外した反動が昌浩の心にどのような傷痕を残すのか、考えたくもなかった。
 そしてきっと幸福な結末を迎えることはないと確信できるのに、紅蓮には彼を止めるだけの理由が存在しないのだ。心はこんなにも大声で叫んでいるというのに。
 昌浩の手を血で汚すなと。

 そのはずなのに。

 突如、空間そのものが高い音を立てて軋んだ。同時に昌浩の周りに光矢が十本浮かび上がる。一呼吸する暇もなく、それらは輝く光の帯と化しぴくりとも動かない丞按へと放たれた。
 が、直前にその体を守るようにして地面から何かが起き上がった。矢は全て壁となったそれに防がれ、耳障りな獣の悲鳴が空気をつんざく。幻妖に身を挺して防がせた丞按は、召還の印を結んだまま素早く立ち上がった。
「馬鹿な、本当に生きているだと……!」
 背後から突き刺した錫杖は、確かに致命傷を負わせたはずだった。激痛に声もなくくずおれ、この幼い天狐は虫の息になっていた。よく見れば天狐の衣装は帯に穴が空いていたが、傷口は見えず、血も一滴たりとて流れてはいなかった。
(化け物め)
 なんというしぶとさか。凌壽の話にあった通り、この状況で仲間の命を喰らって生き延びたのか。だとしたら神将は弱体化しているかもしれない。まだ丞按に活路は残されていた。
 印に応えて幻妖たちが異界へ召還される。それを横目に認めて、六合は気を失ったままの中宮を地面へ下ろした。
「露払いをする。騰蛇は中宮を守れ」
「なに?」
 眉間の皺を深くして睨みつける紅蓮に、勾陳が口を挟んだ。
「お前だと勢い余って丞按まで殺してしまいそうだからだよ。援護は頼んだ」
 言うや否や返答も待たず、筆架叉を両の手に収めて勾陳は駆けだした。六合もすぐにその後を追っていってしまう。残された紅蓮はちっと舌打ちして、固い砂の上に寝かせられた中宮の前に出た。
 掌に炎蛇を招きながら、苦い焦りを抱く。
 昌浩が死んだと思ったさっきは、理など糞食らえだと感じていた。途轍もない怒りが、紅蓮にそれだけの力を与えていた。それが――今や影も形もなく、紅蓮はまた理を犯す恐怖に怯えている。
 昌浩の代わりに丞按を殺す勇気もない。彼を救う手段がどこにも見つからない。救ってやりたいと今し方望んだばかりなのに、ふがいない自分に失望する。たった一人を救うこともできず、何が十二神将最強だ――そう心中で罵っても、事態が変わるわけでもない。
 歯軋りしながら、紅蓮は召還した炎蛇を幻妖めがけて解き放った。
 同朋たちもまた幻妖の数を減らそうと奮闘している。昌浩は彼らの後ろに陣取り、ずっと奥に佇む丞按を睨みつけているようだった。
 印を結んだまま、じりじりと丞按が動いた。四丈ほど離れた場所にある空間の亀裂ににじり寄っていく。けれども昌浩がすっと指をさした途端、その身に途轍もない重圧がのしかかった。みしりと関節から異音が響き、丞按が呻く。
「ぐっ……!」
「逃がすと思うな」
 低く落とされた呟きは、闘いの騒音に紛れることなく全ての者に届いた。含まれた冷たさにぞっとしながらも、紅蓮は炎蛇を操り向かってくる幻妖を薙ぎ払った。
 法具である錫杖を失っている為か、幻妖は以前よりも倒しやすかった。おかげで召還され増えていく速度よりも紅蓮たちが倒す速度のほうが上回っている。召還印を崩せない丞按は他の手段を取ることもできず、消耗していくばかりだ。さらに術で拘束され、逃げ場もない。
 ついに左肩から一際大きな異音が響き、僧の精悍な顔に脂汗と苦痛が浮かんだ。関節が負荷に耐えかねて悲鳴を上げている。それでも綻びに接近しようと足掻いていた足が、ぴたりと止まった。
 かけられていた術は一つではなかったのだ。いつの間にか不可視の結界に囚われ、身動きができない。
「―――!」
 丞按の表情が憤激に彩られた。ぎらりと光る眼差しが昌浩へと向けられる。
 どう考えても今の丞按に勝ち目はなかった。霊力は既に残り少なく、枯渇の時は近い。逃げることもできないのであれば、後は嬲られるのを待つばかりだ。

 今の状態では。

 丞按の視線が昌浩を逸れ、さらにその後方へと向けられた。炎を操る神将が背後に庇っている、姫へ。藤原の娘へ。
 あの娘さえ手に入れられればよいのだ。
 その為なら自分の身体などどうなっても構わなかった――とうに復讐に捧げた身など、ここでその目的を成就させるのであれば朽ちても構わなかった。

 だから、彼は呼んだ。
「羅刹……!」
 身の裡に封じていた魔物の名を。
 解放する。

 瞬間、五臓六腑を焼き尽くす激痛が丞按の全身を走り抜けた。内腑が灼痛に満たされ喉元までせり上がる。血管という血管を、血液ではない何かが循環していく。眼窩から、鼻腔から、口腔から、体中の穴という穴から熱風が吹き出して止まらない。
 魂が浸食されていく痛みだった。
 丞按の肌を焼きながら妖気が噴出していく。次第に拡散していくそれに、昌浩たちはもちろん気づいていた。
 昌浩が真っ先に丞按にかけていた術の威力を強めた。とうとう圧力に負けて、丞按の片足ががくりと折れる。顔を上げた僧の口元からは赤い液体が一筋零れ――
 だというのに、彼は凄絶な笑みを浮かべていた。
 昌浩が表情を歪めた。間に合わないことを察したからだった。
 黒い羽虫か煤にも似た妖気が意思を持つもののように空気中をうねり、幻妖へ到達する。醜い獣の毛皮にべとりとくっついたかと思うと、妖気はすうと消えて色を失くした。
 幻妖が一際大きな唸り声を上げた。劣勢を強いられていた獣たちの肉体が、みるみるうちに膨らんでいく。頸部に切っ先を突き込もうとしていた六合の鉄面皮が揺らいだ。幻妖の体躯は一回りほど大きくなり、その一撃では到底倒せそうにはなかったからだ。鍛えた鋼を寄り合わせたような四肢がさらに太くなり、牙も爪も鋭さを増している。濁った瞳がぎらりと赤く光り、六合に飛びかかった。
「………!?」
 獣の攻撃に反応して反撃の穂先が下段から跳ね上がる。つい先程までだったら獣の体を断ち割ることができただろうその槍は顎を砕くだけに終わり、使い手は柄を引き戻さざるをえなかった。
 勾陳も同じ結果に終わっていたようだ。彼女の筆架叉すらも通さぬ肉体を獲得した幻妖は、がちがちと牙を鳴らして神将たちを威嚇した。その後ろで、印を結んだままの丞按の影から――妖気に接触されて汚染された地面から、幻妖が数を増やしていく。漏れ出る妖気の拡散は留まるところを知らない、かのように見えた。
 突然、ぱぁんと乾いた音が響いた。
 空気中の妖気が瞬時に祓われる。それだけではなく、丞按から吹き出ていた謎の妖気の流出も止まっていた。穢れてしまった地面も一瞬にして浄化され、異空間の只中にあって清浄な空気が戻ってくる。
 柏手一つで妖気を祓った昌浩は、険しい眼差しで丞按を見据えていた。
 術を同時に複数行使するには限界があった。結界と縛魔術の維持の為には、それ以外に集中をするわけにはいかなかった。――そう、柏手一つ打つにしても。
 それが妖である昌浩の限界だった。
 丞按にかけていた術を解いて打った柏手だったが、強化された幻妖の弱体化はできなかった。彼らの肉体自体が殻、外と内とを分ける結界となって浄化を阻止しているからだ。
 だが、これでもう数は増やせない。
 丞按が印を解いた。彼もそのことを理解していたのだ。
 召還はできない。であれば、丞按は他の方法を取らざるをえなかった。再び結界で拘束される前に、一番厄介な敵の排除が必要だった――すなわち、昌浩の排除が。
 幻妖の群の真ん中を割って、丞按が昌浩へと走った。はっとした勾陳と六合が対峙していた幻妖から離れようとする。けれど隙を突けずに終わり、立ち位置を変えられない。最も後方に位置し戦場全体を見渡せる紅蓮は丞按の意図に気づくと、思わず炎蛇を放とうとした。
 すかさず、
「騰蛇!」
 勾陳の怒声が飛んだ。紅蓮の動きが一瞬凍り付く。そうして紅蓮を制止しながら、彼女自身は、筆架叉を丞按めがけて投擲していた。
 もちろん勾陳に人間を傷つける意思はない。狙いはあくまで丞按の足下――進路を妨害し、昌浩に反撃の機会を与える為の牽制の一撃だった。
 しかし、澄んだ金属の音がそれを阻止した。
 丞按が走りざま懐から取り出した三鈷杵が、筆架叉を弾く。短い三つの刃に防がれ、筆架叉は離れた場所に突き刺さった。
 鈍く震える鋼の音が響く。その頃には、丞按は昌浩の目の前でとうに三鈷杵を振りかぶっていた。

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